駅弁

校長 永井康博

 
 昔の旅行での移動手段は、鉄道が主流でした。当然時間が掛かるので、車中で1回は食事を摂ることが普通で、車中での食事といえば乗車前に駅で購入するか、車内販売での「駅弁」でした。新幹線をはじめ長距離の特急・急行には食堂車が連結されていましが、価格が高かったこともあり、なかなか利用することができませんでした。全国各地にその土地の食材を活かした名物駅弁が必ずあり、それを食しながら車窓からの景色を楽しむのも旅の醍醐味でした。
 その駅弁に関して、先月初旬にショッキングな記事を目にしました。滋賀県米原市で100年以上の歴史を誇る老舗駅弁業者「井筒屋」さんが。駅弁事業から撤退するというものです。米原は新幹線の駅もあり、東海道本線と北陸本線とが交わる古くからの交通の要衛です。
 実は井筒屋さんだけでなく、昨今、駅弁業界そのものが衰退していっているようです。その一番の要因はコンビニの台頭です。新幹線や特急列車が発着するような駅になると、改札に入る前の通路にまず複数のコンビニがあり、改札を入ってもコンビニ、そしてホームに上がってもコンビニ。そこには駅弁より安価な弁当が置いてあり、必要に応じて電子レンジで温められて提供される。これでは駅弁が衰退するのも仕方がないような気がします。
 井筒屋さんのホームページに、駅弁事業からの撤退のご挨拶が掲載されていたので、その一部を紹介します。
 

 旅のお供であるべき駅弁とは何か、その土地ならではの駅弁とはどういったものかを思い巡らせ「味をえらび、味をととのえ、味ひとすじに」納得いただける商品をお届けしたいと日々励んでまいりました。
 しかしながら、昨今の食文化は娯楽化がもてはやされ、誤った日本食文化の拡散、さらには食の工業製品化が一層加速し、手拵えの文化も影を潜めつつあります。このような環境に井筒屋のDNAを受け継いだ駅弁を残すべきではないと判断いたしました。(中略)
 時代の変遷に振り回されることなく、井筒屋らしく、とるべき道を選び、令和7年3月20日をもちまして、駅弁事業からは撤退致します。

 この文面からは、地元の食材にこだわり、米原でしか味わうことのできない駅弁を100年以上作り続けてきた老舗のプライドと廃業への苦汁の決断がうかがえました。
 コンビニだけではなく、時代の変遷と共に、世の中には便利なものが増えましたが、一方で長く続いた日本独特の伝統的なものが姿を消していくことに、一抹の寂しさを覚えます。

 
 
2025年02月01日