地球の上に生きる
国際理解コーディネーター 愛媛大学法文学部 非常勤講師 中矢 匡 氏
【目的・要旨】
世界中を自分の足で歩き回りたいと思ったのは、幼少の頃よりサッカーを続けて、日本体育大学在学中に足の怪我で入院していた時のことである。大学在学中から旅を始め、教員になってからも長期休暇を利用し、これまで80の国や地域へ渡航した。カンボジアでは元少年兵の男性と交流を持った。少年兵としてこれまで殺戮することを生業としてきた人間が現在は身寄りのない子どもたちを引き取り、学校教育を受けさせるボランティア活動をしていることに驚いた。彼がこれまで歩んできた人生があまりにも壮絶なものだったので、日本に生まれることができたことに初めて感謝の気持ちを抱いた。海外では日本ではまず起こり得ないことが日常的に起こり、改めて平和であることの意味を考えさせられた。
インドのカルカッタでは路上生活者に出会った。物乞いをしてくる小さな男の子の手を振りほどき、前を向いて歩きホテルに向かったがその晩、涙が止まらなかった。助けることができたのに私は助けなかった。次の日、同じ場所に行くと今度は赤ん坊が横たわっていた。またその横にお金を入れるための缶が置いてあった。放っておくと赤ん坊は死ぬだろう。だが、いくらかのお金を入れたところで今日を生き延びることはできても明日には死ぬかもしれない。私はお金を入れずに通り抜けた。路上生活者の中には体の一部が欠損している人が多いと聞いた。障害がある方が通行人の同情を買うことができ、お金をもらえる可能性が高くなるからである。私は感情が溢れてきて、気持ちの整理がつかぬまま次の日インドを旅立つことに決めた。あくる日ガンジス川のほとりに小さな女の子がいた。目が合うと花の飾りを手渡してきた。花の飾りを見るとこれまでの悲しいことが吹き飛んだ。女の子にお金を支払うと微笑んできた。言葉は通じなくとも心は通じた。
日本に戻り、温かい食事を摂り、布団に横たわると海外での壮絶な体験とともに楽しい思い出が頭に浮かんできた。まだ見ぬ世界へ行き現地の人々と交流しよう決意し教師を辞めた。人とのかかわり方に正解はない。自分の目で見たことを信じ、死ぬ時に笑っていられる人生を送りたいと思う心は今日もどこか知らない土地を歩いている。
【生徒の感想】
- 中矢さんの、海外での経験を聞き、いかに日本が恵まれているか感じた。自分だけが不幸であると思わず、生きている意味を考え、つらいことがあっても前を向いて生きていこうと強く思った。
- 人に言われることが、必ずしも正解というわけではなく、自分を信じることが大切だと思った。周りと同じようにするばかりでなく、自分が正しいと思うことをしたいと強く感じた。
- 日本における当たり前と海外における当たり前の差を感じた。私も高校卒業後に機会があれば海外に行き、現地の人と交流することで視野を広げていきたいと思った。
- 挫折することを恐れずにどんどんチャレンジしていくことが大切だと思った。自分にとって居心地のいいところにずっといるだけでなく、中矢さんのように知らない土地に飛び込んでいく勇気を持ちたいと感じた。
- 高校生活で勉強や部活動に追われているが、広い世界の中で何ができるか考えさせられた。視野を広く持ち、日本の良さを世界に発信していくような仕事に就きたいと思った。
講義する中矢氏