がんばれ! 市内電車旧型車両
校長 永井康博
松山市民や観光客にとって大事な足となっている伊予鉄道の路面電車。松山市民は親しみを込めて「市内電車」と呼んでいます。最近は、低床で軽量の新型電車「LRT」が増えてきました。従来の車両より省エネが進み、バリアフリー対応にもなっている乗り心地も良い車両です。現在22両が導入され、全車両に対する割合も60%となっており、今後も増備されていくようです。一方で、製造から50年から70年経った古い車両が16両、今も現役で活躍しています。新型車両と比較すると、モーターやコンプレッサーの音も大きく、スピードが出ると上下左右に大きく揺れるなど、決して乗り心地が良いとは言えません。ただ、自分が高校生時代に通学に利用していたこと(当時の運賃は60円)、車齢が自分の年齢とほぼ同じであることもあり、大そう親しみを感じています。そんな旧型車両を紹介したいと思います。
モハ50型電車
1951年から1965年にかけて計78両が、伊予鉄道がナニワ工機と帝国車両に自社発注し、製造されました。電車の正面にナンバープレートが取り付けられていますが、50番から78番の電車がそれに相当し、現在も11両が運用されています。同じ形式でも初期に造られた車両は戦後の物資不足のせいか、床、壁、天井などに木が多く用いられています。
モハ2000型電車
この車両は1964年から京都市電の車両として製造されましたが、京都市電の営業縮小に伴い、5両が伊予鉄道に譲渡され、2002番から2006番のプレートを付けて、今現在も全ての車両が運用中です。タルト電車、砥部焼電車、今治タオル電車として活躍中の電車もこれに当たります。
松山市中心地なら、ほぼどこからでも市内電車を見ることができますが、私の「おすすめスポット」が3カ所あります。先ずは「古町駅」。車両工場(車両基地)が隣接し、検修や整備を受ける多くの車両が留め置かれており、市内電車だけでなく郊外電車(東京の京王線で使用されていた懐かしい車両が多く在籍)も見ることができます。次に「大手町駅」。駅前に今では全国で唯一となった鉄道線(高浜線)と軌道線(市内電車)が垂直に交差(ダイヤモンドクロス)している場所があります。3つ目は「松山市駅」。ほとんどの路線の電車が発着する、乗降客も一番多い電停です。次々と電車が到着し、お客さんを降ろすと、すぐに折り返して発車していく光景は見ていて飽きません。
昭和40年代の急速なモータリゼーションの進展により、東京・大阪などの大都市だけでなく地方都市の路面電車のほとんどが姿を消していき、地下鉄やバスに転換されました。しかし、高齢化社会の進行やカーボンニュートラルへの取り組みが重要となるとともに、誰もが利用しやすく環境負荷の小さい路面電車が見直されつつあります。今年8月、栃木県宇都宮市に日本で75年ぶりの新規開業となる路面電車「宇都宮ライトレール」が開業し、好評を得ています。
松山の市内電車もいずれは全ての電車が「LRT」に置き変わり、さらに便利になると思います。しかしながら、旧型とはいえ自家用車などに比べ格段に環境にやさしい電車を長く大切に使うことも、カーボンニュートラル実現につながるのではないでしょうか。長年にわたり市民や観光客の足となってきた旧型車両には1年でも長く活躍してほしいと心から願っています。